ミュージックビデオあるあるを表現した「MUSIC VIDEO」で一気にブレイクし、先週5月18日にメジャーデビューを果たした、宇治が生んだ「盆地テクノ」の伝道師こと岡崎体育。
僕はだいたい1年半くらい前から彼のファンだった。
…いや、ファンのつもりだった。
でも僕が1年半ものあいだ見ていたのは表面的な部分だけで、彼の本当の魅力には気付いてなかったということを思い知らされたのだ。
岡崎体育というアーティストを初めて知ったのは2014年7月。
自主制作アニメ「寿司くん」第2シーズンのオープニングに採用された「SUMESHI」を聴いたのが最初だった。
それから数ヶ月は「寿司くんのOPの人」という認識で、「なんか名前が『石野卓球』のパクりっぽい」(後に実際にそれが芸名の由来であることを知ったのだけど)と思ったのと、なぜか僕の母校である専門学校のテレビCMの曲も担当していた(テレビ見てたらクレジットで名前が出てびっくりした)以外には特に思い入れはなかった。
ここで補足しておくと、「寿司くん」とはアニメおよびそのメインキャラの名前であると同時に、作者の映像作家、小山拓也さんの別名義でもある。
寿司くん(小山さん)はアニメに限らず、実写でも映像作品を作っており、関西で活動しているインディーズバンドのミュージックビデオなんかもたくさん撮っている。
ちなみに先日話題になっていた「MUSIC VIDEO」をはじめ、岡崎体育のデビューアルバムの初回限定盤DVDに収録されているミュージックビデオはすべて寿司くんが担当している。
話を戻す。
岡崎体育のライブを始めて観たのは、2014年10月4日に大阪・南堀江のライブハウスknaveで開催されたイベント「OH! sushi-jya-night 2014」(おすしじゃないと)のときだった。
このイベントは、アニメ寿司くんのファンイベントであると同時に、寿司くんが今までにミュージックビデオを撮ったアーティストを迎えてのライブでもあった。
僕はアニメ寿司くんも好きだったし、出演アーティストの中にずっと推しつづけてるバンドさんがいたので、このイベントを楽しみにしていた。
先ほども書いたとおり、そのころは岡崎体育はただの「OPの人」だったので特に期待してなかった。
が。その日、一番印象に残ったのは、他でもない岡崎体育であった。
時刻的に考えて出番が終わった直後だと思われるが、当時の僕は次のようなツイートをしている。
岡崎体育ヤバいな…。歌ネタ芸人として賞レース出てみていいんじゃないのこれ
— mzsm@6/25技術書典 (@mzsm_j) 2014年10月4日
そのときのセトリはもはや覚えていないが、子供番組風の曲がどんどん狂っていく「okazaki child management」、フリップ芸の「家族構成」、もはや何の運動なのかわからない「okazaki hyper gymnastics」あたりはやっていた覚えがある。
その日から、僕の中での岡崎体育の位置付けは、「口パクでライブを行い、体型に似合わず(失礼)よく踊る歌ネタ芸人」になった。
その1ヶ月後に大阪芸大の学園祭、2015年に入ってからは4月に2回目の寿司くんイベント「OH! sushi-de-SHOW」、同じく4月に「COMIN’KOBE」、7月に「見放題」、10月に「MINAMI WHEEL」と、主にサーキットイベントで、岡崎体育のライブを観た。
どのライブでどの曲を聴いたかははっきり覚えていないが、学園祭で「探知機チキン竜田」と「FRIENDS」を、OH! sushi-de-SHOWで「国立サイバー小学校卒業式の歌」と「Voice of Heart」を、見放題で「Explain」を、それぞれ初めて聴いたはずである。
新しい曲を聴くたびにその発想に驚かされて腹を抱えて笑い、音楽フェスに来ているはずなのに岡崎体育の出番だけはお笑いライブを観ているような感覚だった。
もうすっかり岡崎体育にハマっていた。
が、CDは持っていなかった。
「家族構成」のフリップ芸や「探知機チキン竜田」「Voice of Heart」などの口パクはライブでの視覚的なパフォーマンスがあるからこそ面白く、視覚情報がないCDでは面白さが伝わらない。
それから、当時販売していた自主制作CDにはライブでよく聴く定番曲はほとんど入ってなかったというのもある。
なので、食指が動かなかったのだ。
今年2016年の1月、奈良でのワンマンライブのとき、ソニーミュージックからメジャーデビューするという発表がされた。
この発表を聞いたとき、「ソニーミュージック」は「ソニーミュージック」でも音楽のほうじゃなくて、お笑い部門のある芸能事務所「ソニーミュージックアーティスツ」から芸人としてとしてデビューするんじゃないかと疑った。
どうやら本当に音楽の方のソニーミュージックからCDが出るのだと知り、「イロモノに走るとは…トチ狂ったかソニーミュージック!」と思った。
この時点でも、僕の中での彼の位置づけは「歌ネタ芸人」のままだったのである。
先月4月下旬に「MUSIC VIDEO」のミュージックビデオが公開されるや否やあっという間にその内容が話題になり、テレビでも岡崎体育の名前がちょくちょく出てくるようになった。
前から好きだったアーティストがこんなにも話題になっているのが嬉しくて、「面白いのはMUSIC VIDEOだけじゃないだぞ、他にも面白い曲がいっぱいあるんだぞ」と周囲に面白さを広めようとした。
そしてようやく先週のメジャーデビューアルバム「BASIN TECHNO」発売に至った。
CDをプレイヤーにセットして再生すると「Explain」「MUSIC VIDEO」「家族構成」「FRIENDS」そして「Voice of Heart」とお気に入りの曲が続く。
どれも聴きながら映像が目に浮かぶ。CDで聴いてもやっぱり面白い。
バリカッコいいインストゥルメンタル曲の「Outbreak」を挟んでラスト2曲。
「スペツナズ」と「エクレア」。
僕はここで初めて、岡崎体育の「チョケてない曲」をしっかりと聴いた。
めちゃくちゃいい曲じゃねーか…。
このアルバムを全体としてみると、前半5曲一気に「チョケた曲」を続けたあとインストゥルメンタル曲「Outbreak」をインターミッション的に挟んでラスト2曲「チョケてない曲」で〆る、という2部構成になっている。これがもしレコードだったら「Outbreak」でA面、B面が分けられるだろう。
これがもしA面の「チョケた曲」ばかりで構成されていたとしたら、イロモノCDで終わっていただろう。
でも逆にB面半の「チョケてない曲」だけだったとしたらそんなに印象に残ってないか、そもそもCDを聴いていない可能性すらある。
前半の「チョケた曲」でまずはリスナーを引き込んだ上で、後半の「チョケてない曲」をしっかり聴かせる。
そのバランスが素晴らしい。
朝日新聞の記事によれば、「本気でやりたいことは、この2曲(引用註:「スペツナズ」と「エクレア」)」で、「こうした「真面目な曲」へ聴き手を導く入り口として、「ネタ要素」の作品がある」と書かれている。
実は大阪芸大の学園祭ライブのとき、チョケた曲ばかりが続く中で1曲だけチョケてない曲「SNACK」をやっていた。
そのときは完全にお笑いライブ気分で観ていたので、この曲もどうせ途中から狂ってくるんだろうなと思っていたら真面目なまま曲が終わったので拍子抜けした覚えがある。
今にして思えば完全に失礼な話なのだけども。
それ以外には、ライブではほとんど「チョケた曲」ばかりやっていた印象しかない。
ライブは「聴き手を導く入り口」、特に他の会場のアーティストとお客さんを取り合うサーキットイベントはそうなのかもしれない。
1年半もの間好きだと思っていながら、実は「入り口」に立ち止まったままで、その奥にある音楽的な素晴らしさに気付くところまでたどり着けていなかったことが恥ずかしい。
どうしても面白さのほうに目(耳)が持って行かれてしまって気付きにくいけれど、よく考えてみれば「チョケた曲」も歌詞を聞かずにトラックだけ聞いてみればいい曲である。
「お笑い」と「音楽」の両方をバランスよく兼ね備えていることが岡崎体育の魅力なのだ。
どっちが欠けても物足りない。
両方が揃っているからこそ良い。
これからも「チョケた曲」「チョケてない曲」両方を聴かせて欲しい。
そしてゆくゆくはさいたまスーパーアリーナで、なんなら紅白歌合戦でも全力の口パクを披露してくれることを期待している。
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